ある意味で一話のメインとも言える場面。クラス会の後、他の同級生達は別の場所に移動するが、孝平、恵子、琴美、終の四人だけは、結局最後まで残ることになる。孝平の提案で、四人は母校の中学に行く。夜の校舎に忍びこんで、教室に入る。そこで、恵子と琴美、二人が中学を卒業してからこれまで、どういうふうに生きてきたのかが、語られることになる。
1
「あたし、ここだった」と、言って、琴美が席につく。他の三人も、それぞれの席につく。
「結局、ここにいた頃が一番幸せだったのかなー」
「なんか意外」と、琴美が言う。「あたしにとっては、麻生恵子さんは幸せな人の代表だったの。あんなふうに生まれてきたかったなあ、って」
「ずっとそんなふうには生きていられないよ」と、恵子は言う。
「いま、なんか、全然さえなくて、生きててもつまんなくて。正直言うとね、私、ここにいた頃は、自分が世界の中心にいる気がした」
「どんどん、どんどん、駄目になってくの」恵子が言う。
「こんなはずじゃないのに、って、もがくんだけど、どうにもならなくて。私と孝平、同じ県立行って、一緒に大学も受けたの。でも、私だけ落ちた。落ちるなんて思ったこともなかった。私は大丈夫、なんだかわかんないけど、そう思い込んでたの」
「それでさ、力抜けちゃって。なんにもできなくなっちゃった。心の力がなくなったみたいになっちゃって、何ヶ月もぼうっとしてた。親はすごいがっかりした顔してて。なんかその顔みてたら、無性に腹立って、暴れたりした」
「意外でしょ? 結構暴れたんだよね」恵子が笑う。
「でも、そんな自分が情けなくなっちゃって、家でたの。一人で東京行った。良い子ちゃんの私を誰も知らないところに。楽だったなあ。優しくしてくれる男の人と、バイト先で知り合って、結婚しちゃった」
「え?」と、終が言う。
「結婚しちゃったの、私。知り合ってすぐ、親にも言わないで。でも、三ヶ月しないうちに、逃げた。離婚届け置いて、逃げた。それからなんか、なにやってもすぐ嫌になって、逃げてばっかり。いまはね、小さな海苔作ってる事務のバイト。さえないの。おじさんばっかりの、丸八海苔のアイドルとか言われて。全然さえない。全然駄目。つまんないの。つまんない」
「今日、琴美がうらやましいと思った。輝いてみえた。いまが幸せなんだろうな、って、思った」恵子は振り返って、琴美に言う。「別に、変な意味で言ってるんじゃないよ」
2
「ううん、ブスだったからね、あたし」と、琴美が言う。
「でも、恵子はそんなふうに接しなかった。みんなに、ブスとか、そういうのやめなよ、って、言ってくれたこと、あったよね?」
恵子は首を振る。「それは、優しさなんかじゃないよ。そんなふうに言う自分が好きだっただけ」
「でも、そんとき思ったんだ。この人は、ほんとに幸せな人なんだろうな、って」カメラは恵子を映している。
「そういえば」琴美が言う。「ここにいる人みんなは、あたしのこと、ブス、って言ってない」
「ちゃんと憶えてるんだ。誰がいつ、何度言ったか。辛かったなあ、あの頃。なんでだろ? なんで、そんなに言われなきゃいけないんだろうって。死んじゃおうって、何度も思った。あたしね、今日は復讐にきたの。ずうっと、思ってたからね。綺麗になって、みんなの前に現れてやりたい、って。ずうっと、ずうっと、毎晩思ってた。それが夢だったんだ」
「気持ちよかった。だって、あたしのこと、ブスだとか、どけよブスとか、言ってた人が、みんなあたしのとこに寄ってきて、気持ちよかった……気持ちよかった。でも、ほんの一瞬だけ」
「あたし、誰もあたしのこと知らない高校に行きたくて、親に頼んで、東京のおばさんのとこに住むことにして、東京の高校入ったのね。ガラッと変わったんだよ? 眼鏡やめて、髪型も変えて、今までしたくてもできなかった、オシャレした。そしたら、半年もしないうちに、男の子に好きだって言われた。嬉しかった。もう、飛んだり跳ねたりしたくなるぐらい嬉しかった。でも、でも中身は変わらない。ここにいた頃と変わらないの。心はブスのまま。自信ないの」
「それにね、あたしのこと好きになる人は、見かけだけなんじゃないかなって。あたしのどこが好き、どこが好きって、うっとうしいの。わかってるんだけど、自信なくて。また一瞬にして、ここにいた頃みたいに戻ってしまうんじゃないかな、って。高校三年の時にね、スカウトされたの。モデルにならないか、って。それで調子に乗っちゃって、高校も辞めちゃったんだ」
「でも、全然駄目。本当に綺麗な人ばっかりだし。顔だけじゃなくて、何もかも。しかも、好きじゃないの全然、仕事が。でも他にやることもないし、何していいのかわかんないし。全然駄目。もうどうしていいかわかんない」
@
「そうなんだ」と、恵子が言う。
「でも、なんか不思議だね。なんでこんなにしゃべってんだろ、あたし。クラス会だからかな?」
「山崎終くんは?」と、琴美が尋ねる。
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「あたし、ここだった」と、言って、琴美が席につく。他の三人も、それぞれの席につく。
「結局、ここにいた頃が一番幸せだったのかなー」
「なんか意外」と、琴美が言う。「あたしにとっては、麻生恵子さんは幸せな人の代表だったの。あんなふうに生まれてきたかったなあ、って」
「ずっとそんなふうには生きていられないよ」と、恵子は言う。
「いま、なんか、全然さえなくて、生きててもつまんなくて。正直言うとね、私、ここにいた頃は、自分が世界の中心にいる気がした」
「どんどん、どんどん、駄目になってくの」恵子が言う。
「こんなはずじゃないのに、って、もがくんだけど、どうにもならなくて。私と孝平、同じ県立行って、一緒に大学も受けたの。でも、私だけ落ちた。落ちるなんて思ったこともなかった。私は大丈夫、なんだかわかんないけど、そう思い込んでたの」
「それでさ、力抜けちゃって。なんにもできなくなっちゃった。心の力がなくなったみたいになっちゃって、何ヶ月もぼうっとしてた。親はすごいがっかりした顔してて。なんかその顔みてたら、無性に腹立って、暴れたりした」
「意外でしょ? 結構暴れたんだよね」恵子が笑う。
「でも、そんな自分が情けなくなっちゃって、家でたの。一人で東京行った。良い子ちゃんの私を誰も知らないところに。楽だったなあ。優しくしてくれる男の人と、バイト先で知り合って、結婚しちゃった」
「え?」と、終が言う。
「結婚しちゃったの、私。知り合ってすぐ、親にも言わないで。でも、三ヶ月しないうちに、逃げた。離婚届け置いて、逃げた。それからなんか、なにやってもすぐ嫌になって、逃げてばっかり。いまはね、小さな海苔作ってる事務のバイト。さえないの。おじさんばっかりの、丸八海苔のアイドルとか言われて。全然さえない。全然駄目。つまんないの。つまんない」
「今日、琴美がうらやましいと思った。輝いてみえた。いまが幸せなんだろうな、って、思った」恵子は振り返って、琴美に言う。「別に、変な意味で言ってるんじゃないよ」
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「ううん、ブスだったからね、あたし」と、琴美が言う。
「でも、恵子はそんなふうに接しなかった。みんなに、ブスとか、そういうのやめなよ、って、言ってくれたこと、あったよね?」
恵子は首を振る。「それは、優しさなんかじゃないよ。そんなふうに言う自分が好きだっただけ」
「でも、そんとき思ったんだ。この人は、ほんとに幸せな人なんだろうな、って」カメラは恵子を映している。
「そういえば」琴美が言う。「ここにいる人みんなは、あたしのこと、ブス、って言ってない」
「ちゃんと憶えてるんだ。誰がいつ、何度言ったか。辛かったなあ、あの頃。なんでだろ? なんで、そんなに言われなきゃいけないんだろうって。死んじゃおうって、何度も思った。あたしね、今日は復讐にきたの。ずうっと、思ってたからね。綺麗になって、みんなの前に現れてやりたい、って。ずうっと、ずうっと、毎晩思ってた。それが夢だったんだ」
「気持ちよかった。だって、あたしのこと、ブスだとか、どけよブスとか、言ってた人が、みんなあたしのとこに寄ってきて、気持ちよかった……気持ちよかった。でも、ほんの一瞬だけ」
「あたし、誰もあたしのこと知らない高校に行きたくて、親に頼んで、東京のおばさんのとこに住むことにして、東京の高校入ったのね。ガラッと変わったんだよ? 眼鏡やめて、髪型も変えて、今までしたくてもできなかった、オシャレした。そしたら、半年もしないうちに、男の子に好きだって言われた。嬉しかった。もう、飛んだり跳ねたりしたくなるぐらい嬉しかった。でも、でも中身は変わらない。ここにいた頃と変わらないの。心はブスのまま。自信ないの」
「それにね、あたしのこと好きになる人は、見かけだけなんじゃないかなって。あたしのどこが好き、どこが好きって、うっとうしいの。わかってるんだけど、自信なくて。また一瞬にして、ここにいた頃みたいに戻ってしまうんじゃないかな、って。高校三年の時にね、スカウトされたの。モデルにならないか、って。それで調子に乗っちゃって、高校も辞めちゃったんだ」
「でも、全然駄目。本当に綺麗な人ばっかりだし。顔だけじゃなくて、何もかも。しかも、好きじゃないの全然、仕事が。でも他にやることもないし、何していいのかわかんないし。全然駄目。もうどうしていいかわかんない」
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「そうなんだ」と、恵子が言う。
「でも、なんか不思議だね。なんでこんなにしゃべってんだろ、あたし。クラス会だからかな?」
「山崎終くんは?」と、琴美が尋ねる。
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